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なぜグランドセイコーは日本の情景をダイヤルに閉じ込める? 世界を魅了するデザインの理由とは

なぜグランドセイコーは日本の情景をダイヤルに閉じ込める? 世界を魅了するデザインの理由とは

スイスを中心とした高級時計文化において、近年、高評価を受けているグランドセイコー。そのモノづくりの素晴らしさや価値を再定義するべく、時計ジャーナリストの篠田哲生さんがひも解く連載第4回は、時計の美しさを表現する「ダイヤル」について。世界を魅了する理由にせまる。

ヨーロッパ文化に対して独自のスタイルを磨いた「型打ち」の技術
 日本らしい表現とは何だろう? 
 19世紀後半のヨーロッパ美術に大きな影響を与えた「ジャポニズム」は、平面的な色彩構成や自然に対する視点に独自性を見出したもの。ジョアン・ミロやポール・セザンヌ、フィンセント・ファン・ゴッホやポール・ゴーギャンといった画家は、日本の伝統的な美術作品である浮世絵や屏風絵からインスピレーションを受けることで、新たな美的表現を作り上げていった。
 ではスーパーコピー時計 n級はどうだろうか? 時計の美的表現において、日本文化が与えた影響はそれほど大きくはない。時計の技術や高い精度などのテクニカルな部分は、何度もスイス時計ブランドを震撼させてきたが、美的表現はヨーロッパの独壇場だった。
 とくに懐中時計の時代はケースが大きいため、ケースに彫金を施したり、ミニアチュールと呼ばれるエナメル画で肖像画や名画の模写を描き込んだりと、王侯貴族はさまざまな美的表現で自分のセンスを競い合った。ダイヤルにもエナメル画を描くほか、通常のドレスウォッチであっても、ギヨシェという彫り模様を施して美しい表情を引き出してきた。


 こういった美的表現は、ヨーロッパの文化の中から醸成されてきたものである。そのため技術的な模倣はそれほど難しくないとしても、それが魅力に見えるかどうかは別の話となる。そこでグローバルブランドとして躍進するグランドセイコーでは、スイスの伝統的な美的表現を追随するのではなく、独自のスタイルを構築した。
 グランドセイコーのダイヤル表現の特徴は、“型打ち”にある。職人が金型を彫り、その型を使って金属板に模様をつけるのだ。モデルによってはその工程は一度だけではなく、彫りの異なる金型を複数枚用意し、何度も型打ちすることで立体的な表情を作り出す。色版を重ねる浮世絵にように、彫りを重ねていくのだ。

日本独自の情景をダイヤルに閉じ込めた奥行きのある世界観
 しかもダイヤルで表現する柄にも、日本らしい表現を取り入れる。その一つが“生産地の情景”だ。
 スイス時計やドイツ時計は、どこで生産されるのかにも深くこだわっている。ダイヤルにはGENEVAやLE BRASSUS、GLASHÜTTEと生産地の名称を入れて、ルーツや歴史への敬意を払っている。
 グランドセイコーの場合は、クオーツモデルやスプリングドライブモデルの製造拠点は、長野県の塩尻にあり、機械式モデルの製造拠点は岩手県の雫石にある。どちらも美しい自然に囲まれているが、その美しい風景をダイヤルで表現するのだ。例えば手巻き式スプリングドライブモデルの「SBGY007」は、塩尻に近い諏訪湖にて、冬季に発生する御神渡り(おみわたり)という現象をイメージしている。
 また自動巻き式スプリングドライブモデルの「SBGA211」は時計工房の窓から見える日本アルプスに降り積もる硬く締まった雪と吹き付ける風によって生まれる雪面の様子を表現し、雪白(ゆきしろ)パターンmんと命名している。そして機械式モデルの場合は、製作拠点である「グランドセイコースタジオ 雫石」の大きな窓から見える雄大な岩手山の荒々しい山肌を、精密な型打ち技法で表現する。「SBGJ235」は夜の岩手山をイメージし、青く浮き上がる山肌と優しい月光を表現した。
 いずれのモデルも地元に広がる美しい情景を取り入れることで、より奥行きのある世界に仕上げている。


 さらにグランドセイコーでは、日本の季節観も時計に取り入れる。
 日本は明確な四季がある国だが、実際には二十四節気といって春夏秋冬それぞれをさらに6つに分け、計24の季節で一年の移り変わりを楽しむ。例えば秋から冬にかけては、昼と夜の時間が等分になる「秋分」(9月23日ごろ)、朝晩の冷え込みを感じる「寒露」(10月8日ごろ)、北国では霜が降り始める「霜降」(10月23日ごろ)、暦上の冬の始まりで、初雪の知らせが聞こえてくる「立冬」(11月7日ごろ)というように、季節の小さな移り変わる楽しみ、全てに美しさを見いだす。それが日本の文化である。
 グランドセイコーでは、こういった季節観をダイヤル表現に取り入れており、春の始まりである「春分」をイメージした「SBGA443」は、散った花びらが水面を負いつくす花筏(はないかだ)の情景を描き出した。そして山々が雪に覆われ、平地にも雪が降り始める12月7日ごろの「大雪」をイメージした「SBGA445」は、冷たく重い雪の情景をライトグレーの色調で表現している。
 自然と共に暮らすのが日本の文化。そこから生まれたダイヤルの美的表現は、ヨーロッパの時計ブランドとは違ったグランドセイコーならではの表現となっている。その評価は世界的にも高く、2022年には権威あるドイツのデザインアワード「レッドドット・デザイン賞」では、「SLGH005」がプロダクトデザインの最高賞である「Best of the Best」を受賞。「マニュファクチュールの所在地周辺の白樺林をイメージした文字板が特徴的である。ヨーロッパのビジュアルパターンとは異なる、日本的なデザインを体現しています」と評価された。
 グランドセイコーの作り出す日本らしい美的表現は、再び世界を魅了し始めているのだ。

セイコーが、10台限定のスケルトンクロック「デコールセイコー シュプリンゲンクロック 翔」を披露

セイコーが、10台限定のスケルトンクロック「デコールセイコー シュプリンゲンクロック 翔」を披露
  セイコータイムクリエーションは、金工作家 宮田亮平氏が手がけた鋳造作品とスケルトンクロックを組み合わせたアーティスティックな置時計「デコールセイコー シュプリンゲンクロック 翔」を披露した。本作はセイコーの高級クロックブランド「デコール セイコー」発のコラボクロックとして登場し、10台の数量限定で6月10日より販売される。

  


  セイコークロックを代表する3ブランドのひとつ、デコール セイコーは、国産時計としてのクォリティと芸術性を追求する工芸品や宝飾品の側面が強いプレステージラインだ。

  今回セイコーは、このデコールセイコーと、前文化庁長官で公益社団法人日展 理事長、日本芸術院会員の金工作家 宮田亮平氏とのコラボレーションを発表。同氏が手がけた鋳造作品とスケルトンクロックを組み合わせたアートクロックを披露した。

  同氏は、躍動感のあるイルカを題材とした、ドイツ語で飛翔を意味する「シュプリンゲン」というモチーフで広く知られている。本作の鋳造枠ではこのシュプリンゲンがエメラルドの波と2頭のイルカによって表現されており、時計の上でイルカが大海原を翔る、生命力溢れるコラボクロックが製作された。

  


  この鋳造枠は、デコールセイコーのために作られたオリジナル作品であり、アルミ鋳造に蒔絵技法を用いた箔巻きを施して仕上げられた。鋳造後の組立、彩色、加飾仕上げまでの全ての工程を一点一点宮田氏自身が手がけており、10本という少数生産に見合うあまりに見事な工芸作品が完成している。

  


  波間にある時計部には、宙に浮いているような印象を受けるクオーツ・スケルトンムーブメントを採用。鋳造枠の制作後にセイコータイムクリエーションの熟練の技師によって最終組み上げが行われており、美術工芸作品と精密な工業製品が完全に調和する、全く新しい世界観が生み出された。

  なお、ダイアルからのぞく精緻な輪列の機構は機械式時計を彷彿とさせるものだが、本作は乾電池駆動のクォーツクロックであるため、観る人の目を楽しませつつも正確な時を刻むようになっている。

  


  


  金工作家。日本芸術院会員。元文化庁長官。1945年生まれ。1972年に東京藝術大学大学院 鍛金専攻を修了し、ドイツの文部省在外研究員を経て、1997年から2016年まで東京藝術大学の教授と学長を務めた(現在は名誉教授・顧問に就任)。日本美術展覧会などの美術展で多くの受賞を果たしており、2023年現在では国立工芸館を始め、美術に関連する多くの機関で顧問及び理事、会長に就任している。

  Contact info: セイコータイムクリエーション クロック お客様相談室 Tel.0120-315-474

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